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交通事故による逸失利益算定の基礎収入について

交通事故による逸失利益算定の基礎収入について(定年直前に事故に、定年後に症状固定し、後遺障害が残存した場合の逸失利益算定の基礎収入について)

平成29年赤本上巻91頁によれば、給与所得者の方について、交通事故により後遺障害が残った場合の逸失利益算定の基礎収入については、原則として、事故前の収入を基礎として算出するとされています。

しかし、事故にあったのが、被害者の方が、定年の直前に近い時期であり、治療が終わって、症状固定し、後遺障害の認定を受け、逸失利益算定の損害が確定した段階では、すでに、事故当時の勤務先を定年退職し、退職後、事故前より収入の低い勤務先で就労するにいたっていたような場合は、逸失利益算定の基礎収入については、事故前の勤務先の収入を基準とすべきか、症状固定時の勤務先の収入を基準とすべきか争いになる場合があります。

このような場合、裁判所はどのような判断をしているでしょうか。

交通事故による逸失利益算定の基礎収入について(被害者が、事故後、定年退職し、症状固定時に再就職している場合)

 広島地裁h24.11.8
事案の概要事故当時58歳、症状固定時61歳の公務員(女性)の12級後遺障害(左大腿部の醜状障害および左膝内側のしびれ等の神経症状、ただし、神経症状については他覚的所見なし)逸失利益を67歳まで、10%労働能力喪失で認定
逸失利益算定の際の基礎収入について被害者は、事故当時、公務員であって事故がなくても症状固定前の60歳で定年を迎える予定であり、症状固定時既に61歳であった被害者が、公務員として勤務していた当時の収入を定年退職後も維持していた蓋然性が高いとは認めがたい。もっとも、被害者は、事故後、資格を生かして転職し、公務員当時の8割近い収入を維持していることからすると、事故がなければ、少なくとも現在と同程度の収入を得られる職場に再就職できた可能性が高い。労働能力を10%喪失した後の転職後の収入である647万9956円を基準に、719万9951円(647万9956円÷0.9=719万9951円)

以上のとおり、上記裁判例では、事故前ではなく、症状固定時の収入を基準に逸失利益を算定しています。もっとも、症状固定時の現実収入をそのまま基礎とするのではなく、裁判所が、認定した労働能力喪失率により、症状固定時の現実収入が影響を受けていること前提に、現実収入を同喪失率で割って、労働能力喪失により影響を受けなかった場合の収入を想定して、基礎収入としているところに特徴があります。

また、労働能力喪失期間については、被害者側が、平均余命の半分の13年(ライプニッツ係数9.8212)を主張したのに対し、裁判所は、61歳から67歳までの6年間(ライプニッツ係数5.0757)にとどめていますが、この点は、大腿部の醜状障害に関して、それほど長期に労働能力に影響を与える状況であるとは考えれないこと、その他の後遺障害は、他覚的所見のない神経症状であることが考慮されたようです。