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逸失利益について(その2) – 交通事故専門サイト(宮重法律事務所,広島市の弁護士)
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逸失利益について(その2)

 次の問題は、このような労働能力喪失率(5%、14%、20%等)は、どのような収入に対し、掛けられるかですが、これは、事故前の現実収入に対し、掛けるのが、原則です。例えば、事故前の年収が400万円で、事故による後遺障害の残存による労働能力喪失率が20%と認定されれば、400万円×0.2=80万円で、1年あたり80万円の逸失利益が認定されることになります。

また、家事従事者(主婦のケースが多く、パート勤務の主婦の方も、後記の平均賃金の考え方によれば、主婦と同様の処理をした方が、有利なため、パート収入による計算せず、専業主婦と同様の計算方法によることが、通常です)の場合は、女性の全年齢の平均賃金に基づいて計算されることが多く、平成27年の資料によれば、女性の全年齢(学歴計)の平均賃金は、372万7100円となります。

そうすると、主婦の方が、事故に遭われて、例えば、ヘルニア等の他覚的所見の伴う神経症状の後遺障害が残った場合(12級13号)、14パーセントの労働能力喪失に至ったと認定され、

372万7100円×0.14=52万1794円、1年あたり52万1792円の逸失利益による損害を被ったと認定されることになります。

他方で、例えば、60代後半の方で、事故時点で、無職で、かつ、その前の間の相当期間についても、無職であったような場合には、仮に、事故により、12級程度の後遺障害の残存が認められ、さらに、14級程度の労働能力喪失が認められても、事故時点で、無職で、かつその前の相当程度の期間においても無職であったような場合には、仮に、事故に遭わなくても、再度、就業して収入を得る状態に至る可能性はなかったと認定され、逸失利益が認められない可能性も高くなります。

次に問題となるのは、後遺障害による労働能力喪失が認定され、事故前から就業しており、収入があった場合(仮に、事故時点で無職であっても、再就職の可能性が高いような場合は、逸失利益が肯定される可能性があります。特に、相当高齢の方と異なり、若年の方の場合は、無職でも、再就職した可能性が高く、逸失利益が認定される可能性の方が高いです)に、さらに、どの程度の期間にわたって逸失利益が認定されるかが問題になります。

この点、後遺障害の本来の意味は、治療を継続しても、それ以上よくなる見込みがないという内容であることからすると、当然に、長期にわたって、逸失利益の損害の発生が継続すると認定されてもよさそうですが、実際には、後遺障害の程度や内容によっては、馴化等により、徐々にが労働能力に対する影響も縮小していくことも期待できることから、必ずしも、それほど長期にわたる労働能力喪失期間を認めない取り扱いが、裁判上、定着しているケースもありますし、ケースバイケースの裁判所の判断により、かかる労働能力喪失期間が制限されるケースもあります。

具体的には、むち打ちによる神経症状の後遺障害が、これに該当し、14級9号の場合は、労働能力喪失期間は5年、12級13号の場合は、10年に限定されています。

同じ、神経症状による後遺障害でも、むちうち以外の原因による神経症状の場合は、このような定型化はなされておらず、ケースバイケースで判断されますが、骨折箇所について、神経症状が残存したようなケースでは、たとえ骨折箇所の骨癒合は良好であったとし(骨の変形による後遺障害はないことになります)、神経症状のみ残存により14級が認定されても、労働能力喪失期間は、10年前後まで、認められるケースが多いように感じられます。

このような限定が適当でない場合は、67歳までは就労可能年限と認め、治療終了(症状固定)から、67歳までの期間をもって労働能力喪失期間と考えることになります。

例外として、この67歳に近い年齢、例えば、65歳の方が、後遺障害が認定された場合は、平均余命の2分の1を就労可能年数と考えています。

以上を前提にすると、例えば、後遺障害が残った方が、治療終了時において45歳だった場合で、労働能力喪失期間期間を限定するのが相当でない場合(例えば、12級7号の「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残す」ものとして後遺障害が自賠責により認定されたような場合は、67歳までの労働能力喪失期間を認めるのが一般です)で、その方の事故前の年収が、700万円であった場合、

700万円の14パーセント(12級の場合の労働能力喪失率です)の98万円を単純に22年分として、2156万円の請求が認められるかというとそのようには、考えません。

これは、例えば、かかる逸失利益の請求をして、裁判終了後の判決の結果、47歳で、逸失利益の全額を受けとる場合は、その後、67歳までの間に、さらに受取額に対する利息を受け取ることが可能となるため、その分は、受け取り時に、加害者(通常は、その契約保険会社です)は、その利息分は、差し引いて支払えば良いとの考えに基づくもので、現在の裁判上は、この利息は、年5パーセントの割合で受け取れるものであることを前提として、逸失利益の損害額の算定がなされています。

この年5パーセントの利息を控除した数値は、年数に応じて一覧になっており、その一部を表にすると、以下のようになります。

労働能力喪失期間 ライプニッツ係数 
1年0.9524
5年4.3295
10年7.7217
15年10.3797
20年12.4622
25年14.0939
30年15.3725

上の表を見ると、年数が長くなるほど、ライプニッツ係数は、年数と比較して小さくなっていることがわかります。これは、年5分の利息を将来にわたって控除した結果としてこのような内容になっており、現在の裁判実務では、労働能力喪失期間を認定すると、これに対応したライプニッツ係数を前記の事故前の現実収入と労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数をかけて、逸失利益を算定すると考え方が定着しています。

例えば、前記の45歳、事故前の年収700万円、労働能力喪失率14パーセント(12級相当)労働能力喪失期間67歳まで22年間(対応するライプニッツ係数は13.1630)の場合、逸失利益は、

700万円×0.14×13.1630=1289万9740円

となります。

このようなライプニッツ係数による計算によらず、単純に、22年を掛けた場合、

700万円×0.14×22(年)=2156万円となり、866万0260円の差が出ますが、この部分は、一時金として、上記1289万9740円を受け取った時点以降に、これを適当な方法で、運用すれば、これに対する年5パーセント程度の利息収入を所得として受け取ることがであろうとの考えのもと、埋め合わせができるとの考えによるものです。