後遺障害認定されても、逸失利益が否定されるケース(主に後遺障害の内容によるもの)
自賠責により、何らかの後遺障害に該当すると認められても、逸失利益が認められない場合があります。
ここでは、認定された後遺障害の内容が主な原因となり、逸失利益が否定された事例を取り上げたいと思います。
・歯牙障害(3歯以上に歯科補綴を加えたもの)
これは、交通事故の際、歯に強い衝撃が加わることにより、歯が折れたり、脱臼することにより、3歯以上にブリッジやインプラント等の歯科補綴を加えた場合に、14級2号が認定されるものです。
これについては、歯牙障害のみでは、「労働能力の制限を伴うほどのものとはいえず」として、逸失利益を否定した裁判例があります(大阪地裁13.8.23)。
もっとも、同事例では、後遺障害慰謝料を170万円認めており、14級の一般的な慰謝料が110万円であることからすると、60万円程度増額しています。ただ、増額に理由についての、判決書の理由を見ると「再治療の必要が生じる可能性がある」との指摘があり、やはり、逸失利益的な意味合いではないようです。
また、再治療の必要性がある点については、ブリッジやインプラントについては、将来の治療費、メンテナンス費用として、請求する方法によるのが、本来の形になると思います。
鎖骨の変形が後遺障害として認定されても、神経症状等の具体的な症状が認定されない場合、逸失利益が否定される可能性があります。
・鎖骨変形
鎖骨骨折に伴う鎖骨の著しい変形は、12級5号に該当する後遺障害ですが、これについても「鎖骨の著しい変形が存在することのみによっては労働能力の喪失が生じるとはいえない」とする裁判例があります(東京地裁9.12.24)。
ただし、この裁判例においても、後遺症慰謝料は、350万円と認定され、12級の一般的な後遺症慰謝料額290万円より、60万円程度増額されています。
また、鎖骨変形箇所に疼痛等の神経症状が伴う場合は、この点を、神経症状に基づく後遺障害として評価し、逸失利益を認める事例も多くあります。「鎖骨の変形といってもその程度は明らかでないが、右ひじが挙げづらいこと、首から肩にかけての痛み等を認定し、労働能力喪失率14パーセントで、労働能力喪失期間10年を認めた裁判例(広島地裁2.8.31)もありますし、鎖骨変形の後遺障害のほかに、変形部位近辺に、神経症状が残存し、キーボードを打つ等の仕事の能率が落ちていること等を指摘し、労働能力喪失率10%で12年間の労働能力喪失期間を前提に逸失利益を認めた事例もあります(神戸地裁6.8.26)。
むしろ、鎖骨変形については、これに付随する具体的な症状をカルテ等で立証すれば、一定の逸失利益が肯定されるケースの方が多いように思われます。
脊柱の変形が後遺障害と認定されても、具体的な自覚症状が認められない場合、逸失利益が否定される可能性があります。
・脊柱変形
腰椎椎体骨折等で、固定術を施行した場合には、11級7号の脊柱変形の後遺障害が認定されることが多いですが、この場合でも、変形のみで具体的な症状が伴わないときには、逸失利益の発生が否定されるケースがありえます。大阪地裁3.1.17は、脊柱変形の障害が認定されたケースについて、受傷の前後で、給与に変化がないこと、具体的な仕事への支障も若干という程度であるとして、逸失利益を否定していますが、後遺症慰謝料を一般的な金額より2割程度増額したようです。
もっとも、このような場合に、逸失利益を全く否定するのは、むしろ少数で、変形に伴う神経症状等を評価し、一定の逸失利益を肯定している事例の方が多いですが、本来11級の労働能力喪失率は20%と認定されることが多いところ、脊柱変形に伴う労働能力喪失率は、これを若干、少なめに認定し、14%等と認定する事例も一定数存在しますので、注意が必要と思います。