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交通事故による後遺症慰謝料の増額事例

交通事故による後遺症慰謝料の増額事例(14級の神経症状事例)

14級の神経症状の後遺障害による後遺症慰謝料は、裁判上は、110万円が一般的な基準と理解されていますが、裁判例を見ると、この金額を上回る慰謝料額が認定されている事例も見受けられます。

そこで、どのような場合に、このような増額がなされているのかを、裁判例をもとに検討してみたいと思います。

なお、後遺症慰謝料を増額している事案では、逸失利益の認定の状況とも関連している場合もすくなくないため、逸失利益の認定状況もみながら、増額の理由を考えてみたいと思います。

 福岡地裁26.2.13判決(確定)
事案の概要追突事故。被害者は、頸部及び腰部捻挫に伴う椎間板ヘルニアの傷害を負ったと主張し、12級の神経症状に基づく請求をしたが、裁判所の認定は14級(自賠責の認定も14級)
逸失利益労働能力喪失率9%、労働能力喪失期間10年
後遺症慰謝料120万円
理由被害車両の全損の状況、被害車両の先行車両への玉突きの状況からすると、被害車両の受けた衝撃は、相当大きなものであった。被害者には、本件事故後、しばらくの間、首から肩にかけて強い痛みがあり、立っていることも困難な状況であったこと、その後も頭痛、吐き気を伴う痛みが持続していること等から、通常のむち打ちの場合に比べて一定の調整が必要。椎間板ヘルニアについては、40歳代以上では、椎間板ヘルニアと区別される平成椎間板膨隆は、高頻度に認められると解されていることからすると、被害者(42歳女性)について、ヘルニアを認めるに足りる的確な証拠がない

上記の事例では、被害者の通院した病院間で、ヘルニアの診断をした病院と、そのような診断をしなかった病院があることも指摘されています。このような主張がなされるケースは少なくありませんが、この裁判例では、実際に被害者が、通院した日から遡って6か月前を症状固定日(事故日から14か月後)とし、事故と相当因果関係のある治療期間を限定する一方で、被害者の自覚症状や事故の衝撃の程度を勘案して、逸失利益や後遺症慰謝料を増額しています。

交通事故後の退職等の事情を考慮した事例

 徳島地裁 平成23年12月8日判決(確定)
事案の概要交差点における被害者運転の直進車と、右折車の事故。右顎関節部について、局部に神経症状を残すものとして、裁判所の認定は14級(自賠責の認定も14級)
逸失利益労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間12年
後遺症慰謝料140万円
理由大学病院にて、MRI検査結果として、左側顎関節に関節円板の前方転位及び形態の変形を認める等と記載のある診断書を取得して、自賠責に対する異議申し立後に14級認定。事故による後遺症のために、店長をつとめていた勤務先を退職しており、減収が著しい等の事情を指摘。右耳の違和感も、顎関節症と関連があると認めた。

上記の事例では、左側顎関節に他覚的所見が記載された大学病院の診断書の存在が指摘されているものの、実際に、自賠責で14級認定されたのは、右顎関節部に筋性の関節症が生じていることによる神経症状の後遺障害であり、微妙な事案といえます。被害者の自覚症状や、実際に勤務先を退職に至っていること等の具体的な状況が重視されたものと考えられます。

交通事故による逸失利益を否定しつつ、慰謝料を増額した事例

 横浜地裁 平成24年3月15日判決(控訴中)
事案の概要車線変更してきた車両と衝突。頚部と腰部に神経症状を残し14級9号の神経症状による後遺障害が認定された。
逸失利益0円。公務員の交通事故による受傷については「その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在または将来における収入の減少も認められないという場合には」には逸失利益が否定されるとする最高裁S56.12.22の見解が当てはまる事例
後遺症慰謝料140万円
理由現場作業中心の部署へ移動になったが、身体への負担が重い業務が主であったため、職場の配慮により、軽い事務作業中心の仕事につくようになった。デスクワーク中心になり、身体の負担がある部署への異動を断った。このような事情が、将来の減収につながるという不安がある。

上記の事例では、被害者の将来の減収に対する不安を、逸失利益を認めない代わりに後遺症慰謝料で考慮したものと解されます。このように後遺障害を認定しつつ、逸失利益を否定する場合には、後遺症慰謝料を増額する裁判例は比較的多くみられます。よくある事例では、男子の外貌醜状で、逸失利益を否定しつつ、後遺症慰謝料を増額する事例がありますし、歯牙障害で、逸失利益を否定しつつ、後遺症慰謝料で斟酌する事例もあるようです(千葉地裁 平成25年10月18日判決)

以上からすると、逸失利益を否定した事例における後遺症慰謝料の増額が、比較的理解しやすいですが、他方で、最初の2つ裁判例のように、事故の衝撃の大きさや、自覚症状の経過、事故後の勤務状況(退職の有無)や、12級認定には至らないまでも一定の他覚所見が認められる等の事情を総合考慮して、後遺症慰謝料の増額する事例については、やや、基準があいまいな印象を受ける側面があると感じられるかも知れません。

交通事故により、被害者にCRPS様の症状が認められる場合

 京都地裁23.11.11(確定)
事案の概要被害車両停止中に、追突を受けた。被害者には、事故の1年半前の転落事故により、右上腕骨折後の偽関節手術から、CRPS診断を受けていた。本件事故後に、被害者の背中中央部に強い疼痛が持続的に現れて残存している
判断疼痛としては、かなり強く、就労や日常生活に相当な支障があるが、他覚的所見はなく、14級に該当するが、後遺障害慰謝料としては、150万円をみとめる(14級の一般的な基準は110万円)

上記事案においては、被害者は事故前から、右上腕部についてCRPSの診断を受けており、今回事故により、背中中央部に強い疼痛が出た点についても、従前のCRPSの症状が拡大したとか、あらたに、背中中央部にCRPSを発症したとの主張がなされましたが、判決は、かかる主張は認めず、被害者の症状は14級の神経症状に該当すると認定する一方で、慰謝料額を一般的な基準より、40万円程度増額したものです。