交通事故の後遺障害により自動車改造費用の損害が発生した場合について
交通事故事故の後遺障害により、自動車改造費用の損害が発生した場合について
交通事故により、重い後遺障害が残った場合に、自家用車について、身体障がい者用のリフト等が整備された車両を購入する必要が生じる場合があります。
このような場合にも、加害者側に請求できる損害として、認められるのは、車両全体の価格ではなく、そのような装備がなされた車両と、そのような装備がなされていない通常のタイプの同型車の時価額を比較して、その差額が、加害者側に請求できる損害と認められます。
東京地裁平成22年11月25日判決は、平成18年2月5日発生の交通事故により、重度の障害を負った被害者が、平成19年6月に、平成14年式の身体障害者用リフト等が装備された中古自動車を204万2270円で購入した分につき、このような装備がない通常のタイプの同型の中古自動車の時価は、150万円であるとして、その差額の54万2270円が、本件事故と相当因果関係ある損害と判断しています。
次に、問題となるのが、この車両を将来にわたって買い替える必要がある点についてですが、この点については、このような自動車の耐用年数を認定し、被害者の平均余命にわたって買い替えの必要のある回数と買い替えが必要となる時期を具体的に特定して、損害を算定することになります。
上記の裁判例では、かかる自動車の耐用年数は、10年であると認定し、さらに、将来的には、中古車ではなく、新車の買い替えを想定した場合の身体障がい者用設備費用は、78万円であると証拠により認定し、以下の計算式により、損害額を算出しています。
54万2270円(既に購入した分の損害)+78万円(将来設備のついた新車を購入する際の設備費用分)×【(0.7835(5年後のライプニッツ係数)+0.4810(15年後のライプニッツ係数)+0.2953(25年後のライプニッツ係数)+0.1812(35年後のライプニッツ係数)+0.1113(45年後のライプニッツ係数)+0.0683(55年後のライプニッツ係数)】=204万0416円
上の例で、1回目の買い替えを最初の購入日から、5年後に設定して計算しているのは、被害者が、実際に、平成19年に購入した車両が、平成14年式の中古自動車で、購入した時点で、すでに、5年が経過していたため、耐用年数10年とすると、5年後に買い替えが必要と判断したものです。買い替え開始以降は、新車を購入することを前提に、10年ごとに、その設備費用にかかる金額を将来の損害として認定したものです。
また、被害者は、症状固定時19歳の男性であったことから、その平均余命は、平成19年ころの資料によれば、60年程度とされていたため、少なくとも、55年後まで間、5回の買い替えが必要と判断したものです。
このように、症状固定時の年齢の平均余命をもとに、重度の後遺障害が残った被害者の将来の介護の必要期間を認定し、その期間の介護に必要な設備費用の耐用年数と買い替え時期を具体的に特定した上で、それぞれの買い替え時期ごとの所定のライプニッツ係数を合算して、損害と認められる設備費用に乗じて、損害額を算定する方法が一般的な損害額の計算方法と思われます。